緑膿菌Pseudomonas aeruginosaNO還元酵素に関する研究

 緑膿菌Pseudomonas aeruginosa は日和見感染性の病原菌であり、その感染症は本細菌のバイオフィルム形成能や薬剤排出ポンプ、クオラムセンシング機構等の存在により難治性となり、慢性化することが多い。緑膿菌は嫌気呼吸の一つである脱窒(硝酸イオンを最終電子受容体とする呼吸形式)で生育に必要なエネルギーを獲得できることからバイオフィルムを形成し、酸素が無い環境でも生きることができる。これまでの研究により、緑膿菌の脱窒は、硝酸塩還元酵素、亜硝酸塩還元酵素、一酸化窒素(NO)還元酵素、亜酸化窒素(N2O)還元酵素の4種類の酵素が関与していることが知られている。


(1)NO還元酵素(NOR)の新規な機能

 緑膿菌 NOR 欠損株を作製し、嫌気条件下で野生株と生育を比較した。その結果、硝酸存在下ではNOR 欠損株は生育できなかった。さらに、NOガス、NO産生物質を用いて NOR 欠損株の外因性 NOへの感受性について検討したところ、NOR 欠損株では増殖が顕著に阻害された。最後に NO 産生マクロファージ内での細胞内生存について調べた結果、NOR 欠損株の生存率が野生株と比べて有意に低かった。これらの結果から、緑膿菌 NORは,嫌気呼吸の酵素として機能するだけでなく,マクロファージ細胞内で外因性 NOを解毒する新規な機能が示唆された.従って,緑濃菌 NOR の特異的阻害剤が開発されれば,緑濃菌がバイオフィルム内で生育することができなくなり,その感染を防ぐ有効な手段となるかもしれない。


2)NO還元酵素の分子進化と構造機能相関の解明

 NO還元酵素は2種類のサブユニット、NorBとNorCで構成されている.NorBのアミノ酸配列は,ミトコンドリアの好気呼吸鎖電子伝達系で機能するチトクロムc酸化酵素のサブユニットIのアミノ酸配列とホロジーは殆どないが、膜貫通領域やヘム等の補欠分子族に配位しているヒスチジン残基が保存されていることから, NO還元酵素が好気呼吸で働くチトクロムc酸化酵素の祖先型だとの仮説が提案されている。すなわち,基質としてNOしか利用できなかったNO還元酵素が変異し,酸素を還元できる酵素に分子進化したという仮説である。この仮説を証明するためには,NO還元酵素の立体構造を解明することが必要不可欠であるが、最近、その立体構造が解明された。



緑膿菌Pseudomonas aeruginosaNO還元酵素に関する論文

Hideyuki Kumita, Koji Matsuura, Tomoya Hindo, Satoshi Takahashi, Hiroshi Hori , Yoshihiro Fukumori, Isao Morishima, and Yoshitsugu Shiro (2004) NO Reduction by Nitric-oxide Reductase from Denitrifying Bacterium Pseudomonas aeruginosa CHARACTERIZATION OF REACTION INTERMEDIATES THAT APPEAR IN THE SINGLE TURNOVER CYCLE J.Biol.Chem. 279, 55247-55254.

Kakishima K, Shiratsuchi A, Taoka A, Nakanishi Y, Fukumori Y. (2007) Participation of nitric oxide reductase in survival of Pseudomonas aeruginosa in LPS-activated macrophages. Biochem Biophys Res Commun. 355(2), 587-91.


Tomoya Hino, Yushi Matsumoto, Shingo Nagano, Hiroshi Sugimoto, Yoshihiro Fukumori, Takeshi Murata, So Iwata, Yoshitugu Shiro (2010) Structual Basis of Biological N2O Generation by Bacterial Nitric Oxide Reductase. Science. 330, 1666-1670.



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