原核生物の磁気オルガネラ「マグネトソーム」

   磁性細菌は磁気を感知できるマグネトソームとよばれる細胞内構造物をもつユニークな細菌である。図1は初めて純粋培養された磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticum MS-1株の電子顕微鏡写真である。細胞内に黒い小さな粒子が15〜30個,細胞の長軸に沿って並んでいる。この黒い小さな粒子がマグネトソームと呼ばれる磁気微粒子である。マグネトソームは、大きさ約50nmの単結晶のマグネタイト(磁鉄鉱:Fe3O4)がリン脂質の膜小胞で被われており、それが細胞内に直鎖状に並んでいる。磁性細菌はマグネトソームをコンパスのように用いて磁気を感知することができる。磁石のそばで、磁性細菌の培養液を顕微鏡観察すると、細菌はS極(あるいはN極)に向かって移動し、磁石を反転させると、逆向きに移動する。自然環境下では、マグネトソームは地磁気を感知するコンパスとして機能していると考えられている。地磁気は傾いており、これに沿って移動することで、磁性細菌は環境中で一次元的に移動でき、生育に適した環境を見いだしていると考えられている。このように、マグネトソームは、“膜で仕切られ,特化した形態と機能を持つ細胞内構造物”であることから、原核細胞のオルガネラということができる。磁性細菌の合成する磁気微粒子はマグネタイト(Fe3O4)またはグレガイト(Fe3S4)であり、種によって異なっている。その結晶型も種に特異的で、大きさも極めて均一であるので、微生物学だけでなく、生物工学、結晶学、鉱物学、地球科学などのさまざまの分野の研究者の興味を集めている。

   私たちは、マグネトソームがどのように形成され、機能しているのかを分子レベルで明らかにするため、生化学、分子生物学手法に加え、電子顕微鏡技術を用いて以下のような研究を行っている。マグネトソームの研究をとおして、原核生物のオルガネラ形成やバイオミネラリゼーション(生物鉱物化作用)のメカニズムの解明を目指している。


マグネトソームの構造と蛋白質局在

 マグネトソームには、磁性細菌に特有な機能未知の蛋白質群(Mam蛋白質)が局在している(図2)。これらの蛋白質はゲノム中のマグネトソームアイランドとよばれる領域に存在する遺伝子群にコードされておりマグネトソームの構造形成や維持、マグネタイトのバイオミネラリゼーションなどに関わっている。このうち、Mam22は初めて同定されたマグネトソーム局在蛋白質で、マグネトソームに豊富に含まれる蛋白質の1つである(論文15)。TPR (tetratrico-peptide repeat)モチーフとよばれる蛋白質間相互作用に関わる構造モチーフをもつことから、マグネトソームや細胞質の蛋白質成分と相互作用していることが示唆されている(論文11)(図3)。なお、この研究成果はFEBS Lettersの表紙を飾りました。



 精製したマグネトソームの詳細な電子顕微鏡観察により、マグネトソームが磁鉄鉱、マグネトソーム膜、マトリクス、マグネトソーム間物質の4つの構造物から構成され、複雑に組織された構造体であることを発見した(図4)(論文7)。Mam蛋白質のうち、Mam22とMam12のマグネトソーム内における局在部位を免疫電子顕微鏡法により調べた。その結果、Mam22はマトリクスに、Mam12はマグネトソーム膜にそれぞれ局在していることが明らかにした(図5)(論文8)。これは、原核細胞のオルガネラであるマグネトソームにおける蛋白質の局在の違いを示した初めての報告である。

 マグネトソームアイランドには、MamKとよばれる、磁性細菌固有のアクチン様蛋白質がコードされている。MamKは、マグネトソームの構築に何らかの役割を果たす細胞骨格を形成していることが期待されている。免疫染色を行ったところ、MamKは細胞極間を結ぶ直線状に分布し、細胞中央ではマグネトソームと結合していることがわかった(図5)。また、大腸菌を用いてMamK蛋白質を発現、精製し、in vitroでMamKの重合に成功した(図6)(論文4)。これにより、MamKは他のアクチン様蛋白質と同様にらせん状の繊維を形成することが明らかになった。

 このようにマグネトソームは、従来考えられていた「リン脂質膜で被われた磁鉄鉱結晶が鎖状に並んだだけの単純な構造物」ではなく、組織化されたオルガネラ的な細胞内構造物であり、真核生物のオルガネラと同様に特定の蛋白質が輸送され、局在しており、その形成メカニズムに細胞骨格が関与していることがこれまでの研究で明らかになっている。




磁性細菌のエネルギー代謝

 磁性細菌のエネルギー獲得機構を明らかにするため、磁性細菌M. magnetotacticumよりチトクロムc550(論文17)、cbb3型チトクロム酸化酵素(論文19)、亜硝酸塩還元酵素(cytochrome cd1) (論文16)、硝酸塩還元酵素(論文10)、新規ヘム蛋白質(cytochrome a1 like hemoprotein) (論文12, 20)を精製し、その特徴を調べた。その結果、磁性細菌は微好気的酸素呼吸を行い生育に必要なエネルギーを獲得する一方で、嫌気呼吸経路である脱窒経路の酵素群も同時に発現していることが明らかになった。脱窒経路を担う酵素である亜硝酸塩還元酵素(cytochrome cd1)が新規のFe(II)酸化活性を持つことや、硝酸塩還元酵素活性が最適なマグネタイト合成に必要であることを明らかにし、脱窒経路とマグネタイト合成の関連を示唆した。また、私たちは磁性細菌がもつ新規のヘム蛋白質を発見しており、その機能が注目される。



新規磁性微生物の単離

 磁性細菌は特殊な環境に生育する細菌ではなく、池や川、湖、海などの水環境に遍在するありふれた細菌である。河川などで採取した沈殿物を容器にいれ、磁石を置いておくと様々を形態の磁性細菌が集まってくる(図7)。これらの磁性細菌では磁気微粒子の結晶型も種によって異なっており、系統的にも多様であることが明らかになっている。



磁性細菌に関する研究成果

1. Yamamoto, D., Taoka, A., Uchihashi, T., Sasaki, H., Watanabe, H., Ando, T., and Fukumori, Y (2010) Visualization and structural analysis of the bacterial magnetic organelle magnetosome using atomic force microscopy. Proc Natl Acad Sci U S A. 107(20), 9382-9387.

2. Taoka A, Umeyama C, and Fukumori Y (2009) Identification of Iron Transporters Expressed in the Magnetotactic Bacterium Magnetospirillum magnetotacticum. Curr Microbiol 58: 177–181.

3. 福森 義宏、田岡 東 (2008) 磁性細菌のオルガネラ、マグネトソームの細胞内局在と細胞骨格

4. Taoka A, Asada R, Wu L-F, and Fukumori Y (2007) Polymerization of the actin-like protein MamK, which is associated with magnetosomes. Journal of Bacteriology 189: 8737-8740.

5. 福森 義宏、田岡 東 (2007) 磁性細菌のマグネタイト微粒子の形成機構 月刊バイオインダストリー 24: 5-13.

6. 福森 義宏、田岡 東 (2007) 細菌の磁気オルガネラの構造と細胞内局在 化学と生物 45: 154-156.

7. Taoka A, Asada R, Sasaki H., Anzawa, K., Wu, L-F, and Fukumori Y. (2006) Spatial localizations of Mam22 and Mam12 in the magnetosomes of Magnetospirillum magnetotacticum. Journal of Bacteriology 188: 3805-3812.

8. Pradel N, Santini CL, Bernadac A, Fukumori Y, Wu LF. (2006) Biogenesis of actin-like bacterial cytoskeletal filaments destined for positioning prokaryotic magnetic organelles. Proc Natl Acad Sci U S A. 103:17485-17489.

9. Y. Fukumori (2004) Enzymes for magnetite synthesis in Magnetospirillum magnetotacticum In “Biomineralization” (E.Baeuerlein ed.) WILEY-VCH. p75-90.

10. Taoka A, Yoshimatsu, K., Kanemori, M., and Fukumori, Y. (2003) Nitrate reductase from the magnetotactic bacterium Magnetospirillum magnetotacticum MS-1: purification and sequence analyses. Canadian Journal of Microbiology 49: 197-206.

11. Okuda Y, Fukumori Y. (2001) Expression and characterization of a magnetosome-associated protein, TPR-containing Mam22, in Escherichia coli. FEBS Lett. 491: 169-173.

12. Tanimura Y, Fukumori Y. (2000) Heme-copper oxidase family structure of Magnetospirillum magnetotacticum 'cytochrome a1'-like hemoprotein without cytochrome c oxidase activity. J Inorg Biochem. 82: 73-78.

13. 福森義宏(2000)ナノサイズ生物磁気微粒子の構造と機能,生化学, 72, 1165-1172.

14. Noguchi Y, Fujiwara T, Yoshimatsu K, Fukumori Y. (1999) Iron reductase for magnetite synthesis in the magnetotactic bacterium Magnetospirillum magnetotacticum. J Bacteriol. 181: 2142-2147.

15. Okuda Y, K Denda, Fukumori Y. (1996) Cloning and sequencing of a gene encoding a new member of the tetratricopeptide protein family from magnetosomes of Magnetospirillum magnetotacticum. Gene. 171: 99-102.

16. Yamazaki T, Oyanagi H, Fujiwara T, Fukumori Y. (1995) Nitrite reductase from the magnetotactic bacterium Magnetospirillum magnetotacticum. A novel cytochrome cd1 with Fe(II):nitrite oxidoreductase activity. Eur J Biochem. 233: 665-671.

17. Yoshimatsu K, Fujiwara T, Fukumori Y. (1995) Purification, primary structure, and evolution of cytochrome c-550 from the magnetic bacterium, Magnetospirillum magnetotacticum. Arch Microbiol. 163: 400-406.

18. 福森義宏(1995)磁性細菌の生化学 蛋白質・核酸・酵素 40 919−925

19. Tamegai H, Fukumori Y. (1994) Purification, and some molecular and enzymatic features of a novel ccb-type cytochrome c oxidase from a microaerobic denitrifier, Magnetospirillum magnetotacticum. FEBS Lett. 347: 22-26.

20. Tamegai H, Yamanaka T, Fukumori Y. (1993) Purification and properties of a 'cytochrome a1'-like hemoprotein from a magnetotactic bacterium, Aquaspirillum magnetotacticum. Biochim Biophys Acta. 1158:237-243.

21. Sakaguchi H, Hagiwara H, Fukumori Y, Tamaura Y, Funaki M, Hirose S. (1993) Oxygen concentration-dependent induction of a 140-kDa protein in magnetic bacterium Magnetospirillum magnetotacticum MS-1. FEMS Microbiol Lett. 1993 107:169-174.



培養風景

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